小さな箱に大きな想いをこめて。
あなたに、伝えるの。





Be My Valentine






(作ってくるんじゃなかったかなぁ…)




そんなことを思いながら、はHONKY TONKのカウンター席に座って、
カウンターに沈み込んだまま小さくため息をついて、手に持っている箱を軽くつついた。












今日は2月14日。
女の子の一大イベント、バレンタインだ。
Get Backersの2人や、卑弥呼、赤屍、士度と(ヤバめな)仕事を共にしたりするが、
だって、高校生の女の子。恋だってしている。
学校の女の子たちも、彼にあげるとか、好きな人に告白するとか、盛り上がっていた。
も密かに準備して、此処に来たのだが。




(私何やってるんだろう…。)




は、また、ため息をついた。
想いを伝えたい相手は、自分よりずっと大人で。
こっちはただ(というわけでもないが)の高校生。
受け取ってくれるかどうかなんてわからないし、大体、会えるかどうかもわからない。
連絡先も知らない。もちろん、家がどこにあるかなんてわかるはずもない。
だから、はひたすら此処で待つしかなかった。




「はぁ…。」




本日、何度目かのため息。
コト、と視線の先にコーヒーカップが置かれた。
カップから湯気が上がって、コーヒー独特の香りがあたりに漂う。
コーヒーを置いた手の先をたどってみると、波児がこちらを見ていた。




「波児さん…?」

「まだ待つんだろ?おごりにしといてやるから。」




そう言って波児は小さな子供をあやすようにぽんぽんとの頭を撫でた。




「ありがとうございます…。」




は伏せていた顔を上げて、コーヒーカップに口をつけた。














ザアアァァ……―――――――







突然の大雨。
波児は、窓の外を眺めて、しまったというような顔をした。
がうなだれている間に、夏実ちゃんに買い物を頼んで送り出したらしい。




カラン、カラン…




ドアのベルが鳴った。




「もー!マスター!!びしょびしょですよぉ!!」




買い物袋を提げた夏実が、波児に向かってそう文句を言いながら帰ってきた。
波児は苦笑して、夏実に謝って、とりあえず店の奥に行くように指示していた。

波児がタオルを持って行こうとしたのと同時に、は席を立った。




「あれ、ちゃん、もう帰るのか?」

「はい。多分来ないと思うし。コーヒー、ご馳走様でした。」




は、そう言うと、行き場を失くしてしまった贈り物を持って、ドアを開けようとした。
が、ドアは自動的に開いた。雨音と、ドアベルの音がした。





「…あ……」

「どうかなさいましたか?」




の目の前には、ずっと待ってた人の姿が。





「会えた…。」





ぽつ、との口からそう言葉が漏れた。
波児は、それを見て、何も言わずに奥の部屋へと消えていった。










ザアァ…と雨音が店内に響く。
カラン、とベルが軽い音を立ててドアが閉まった。



「とりあえず、座りましょうか。」

「あ、はい…。」




2人は、ドアからすぐのカウンター席に座った。




「…あの、赤屍さん、」

「なんですか?」

「…これ……。」




そっと、きれいに包まれた箱を取りだす。




「その…今日、バレンタインなので…。」

「…ああ。ありがとうございます。」




赤屍は、いつもの笑顔で受け取った。受け取ってもらえて、は少しほっとした。




「赤屍さん、」

「なんですか?」




は、席を立つと、赤屍にそう声をかけた。
赤屍は、のほうを向いた。




「…義理じゃ、ないですよ?」




遠まわしの告白。
中にカードでも入れておけばよかったと、は少し後悔した。

それでも、赤屍には十分伝わったらしい。
少しだけ…いつも気にかけて見ている人にしかわからないくらい少しだけ、驚いた顔をした。




「…クス。それじゃあ、返事は1ヶ月後、でよろしいですよね?」




今日はバレンタイン。
1ヶ月後はお返しの日。ホワイトデー。




「…ふふ、待ってますから」




はそう言うと。ドアを開けた。
カラン、カランと、ベルの軽快な音が響く。









空はいつの間にか晴れ渡っていて、星の輝く空が広がっていた。