学校から家までの短い道のりを、葵理事に送ってもらうのが習慣になったある日。
隣に座る葵理事の顔を見て、ふと思った。




「葵理事って眼鏡似合いますよね」

「は?」









眼鏡と私と瞳と優越感









唐突な私の発言に、運転席で信号待ちをしていた葵理事はこっちを見た。




「いや、あの、そのまんまの意味ですけど」

「どうした、いきなり」

「あ、理事、青青」




前を指さして、先を促す。葵理事は視線を戻して進み始めた。




「で、」

「はい?」

「さっきの続きだよ、続き。」




葵理事は運転しながらそう返す。




「横から見てて似合うなぁと思っただけですよ。私もかけてみようかなぁって…」




そう話している間に、家についた。
動いていた車が、ゆっくりと止まる。




「お前、目悪いのか?」

「いえ、悪くはないんですが。ほら、眼鏡ってファッションの一部として流行ってるじゃないですか?」

「かけんなよ、眼鏡。」

「え?」




どうしてだろう、と葵理事のほうを向くとほぼ同時にくちびるとくちびるが重なった。
頭の後ろに回された手に強く引き寄せられる。




「…っ、もう、どうしたんですか、いきなり…」

「ジャマだろ、キスんとき」




ふ、と笑う葵理事の瞳が、眼鏡の奥で笑っている。




「じゃあ…」




そっと葵理事の眼鏡を両手で外した。




?」

「葵理事は、私の前以外では眼鏡外さないでくださいね。」




そう言って、葵理事の目を見た。


眼鏡の奥の瞳を、私だけのものにしたいと思った。
そんな、ちょっとしたわがまま。


葵理事はそんな子供っぽい私のワガママに気づいたらしく、低く笑った。




「りょーかい、お姫様」




そう言って今度は優しく微笑んだ瞳にうつっているのは私だけだと、妙な優越感に浸った。