金色の 元気な花
いつのまにか 風に乗って 遠く 遠く……






蒲公英






まだ少しだけ風の冷たい、ある春の日の朝。
昨日までの雨はすっかりあがっていて、空には太陽が顔を出していて。
水滴が光を受けて、きらきらと輝く。


は窓を開けた。
まぶしいくらいに差し込む朝日を浴びて、まだ少し眠ったままの自分を起こす。
大きく背伸びをして、窓の外を眺めた。


「あ、」


窓から見える、すぐのところ。
緑色の葉に混ざって、金色の可愛らしい花が咲いている。


金色に輝いて、いつも元気に咲き誇って。
大切な、あの人にとてもよく似ている花…


は、ぱたぱたと着替えを済ませて、外に出た。
まっすぐに、花の咲いているところへと走る。

足元の草の水滴が、走るたび、散って、跳ねて。
サンダルを履いた足をぬらす。


窓から眺めた景色のまんなかで、は足をとめた。


青く澄み渡った空の下、金色に輝くタンポポの花。
周りの植物たちと同じように、水にぬれて、太陽の光を浴びて、まます明るく輝いていた。


はタンポポのすぐ横にしゃがみこんで、そっと花を撫でた。






















「何してんだ?」


うしろから、久しく聴いていなかった声―――――けれど、よく覚えている声がした。


「エド?」


振り向くと、そこには久々に見る大切な人の顔があった。


「帰ってきたんだね。おかえりなさい。」

「おぅ」

「アルは?」

「あとで来るってさ。…ったくあいつ、いらん気遣いやがって…」

「ふふ、アルらしいね。変わってないや。」

「お前も変わってねぇよな。この時期はいつも此処に居るだろ?」

「タンポポがきれいだからつい、ね。」


はそう言って愛しそうにまたタンポポを撫でた。
エドは、そんなの隣にしゃがみ込んだ。


「昔からタンポポ好きだよな」

「うん」


エドの言葉に、はそう言って頷く。


「何で好きなんだ?」


は、その言葉を聴いて、エドの顔を見た。
そして、またタンポポを見る。


「…ふふ、内緒。」


は、そう言っていたずらっぽく笑った。
エドは不満そうな顔をして、傍に咲いているタンポポをつついた。




















「ねぇ、エド、」

「なんだ?」


は、エドに甘えるようにそっと寄り添った。


「…また行っちゃうんだよね。」

「…ああ。」

「うん…そうだよね。」

「…ごめんな?」


エドは寄り添ってきたの肩をそっと抱きしめた。


「ううん、わかってる。体を取り戻さないといけないんだってこと。だから、あやまらないで?」


はそう言って微笑んだ。







「…またここに帰ってきてくれる?」


は少し不安そうにそう尋ねた。
風が吹いて、草花が揺れる。
少し早く成長したタンポポの白い綿毛が、風に乗って飛んだ。
すぐに、見えなくなるまで遠くへ。


「ああ。約束する。」

「絶対よ?」

「わかってるって」


エドはそう言って笑った。
もそんなエドを見て一緒に笑った。














金色の 元気な花
いつのまにか 風に乗って 遠く 遠く

けれど

またいつかここに咲いてくれると信じて