ここにきて、何年になるでしょう?
今日もわたしは太陽の光をたくさん浴びて、あなたの話を聞いています。
頷くことも、あいづちをうつこともできないけれど、ひとつひとつ、大切に。

わたしがちゃんと話を聞いているなんて、あなたは知らないかもしれません。
…ううん、きっと知らないでしょう。

だってわたしはサボテンだから。
あなたの部屋の窓辺に置かれた小さな小さなサボテンだから…







サボテンノカタ想イ







朝。
天気は晴れ。
あなたが、カーテンを開けてくれました。



「おはよう」



いつものように、あなたはそういってくれます。
“おはよう”という私の返事は届いていないでしょう。




わたしはサボテン。
まわりのサボテンたちの中でも、いちばん小さなサボテン。
ここに、一番最初にやってきたサボテン。

いつここへきて、どのくらいの時間がたったのかは、あまり覚えていません。
けれど、初めてあなたに会ったとき、あなたは大事そうにわたしを抱えて、
このあたたかい窓辺においてくれました。

それから、あなたは毎日話しかけてくれました。
そのうちに、わたしにココロができました。







朝のあなたは、いつもかばんを持って「行ってきます」と微笑んでくれます。
「行ってきます」のあと、あなたはしばらくここに居ません。
寂しくて寂しくて、枯れてしまいそうになります。
あなたが居なくなってしまったから、枯れてしまいそうなくらい、寂しくて、悲しい。





わたしは、あなたが好きだから。


















ある日、「ただいま」と帰ってきたあなたの顔は、
今まで見たことのないくらい、悲しい顔をしていました。
かばんを、机の近くに置きます。
それから、わたしたちのすぐ傍まで来ました。
カタ、と小さく音がして、窓が開きました。



「……今日、さ。」



ぽつり、ぽつりと、あなたは話し始めました。



「…英二の好きな人がわかっちゃったんだ。」



あなたはわたしたちにそう言いました。
英二君っていうのは、お友達。前に聞かせてもらいました。



「でも、僕もそのコのこと好きなんだ……。」



あなたの口から、そう言葉が流れました。
ココロが、ぱき、と音を立てました。



「あきらめないといけないのは、わかってるんだけどね…。」



“それでも好きなんだ”と、苦笑しながらあなたは言いました。






嫌です。もう、聞きたくないです。
こんなの、うそ。ねぇ、嘘だといって笑ってください。
いつもみたいに、笑ってください。







そう思ったって、嘘にはならないとわかっています。
どうしようもないことだって、ちゃんとわかっています。
わたしにはどうすることもできません。
だけど。
あなたを好きなキモチも、どうすることもできないんです。
はじめて、ココロを持ったことを後悔しました。

















わたしはサボテン。
ココロを持ったサボテン。
あなたのことを想うキモチを知ってしまったサボテンです。


ちくちく、ちくちくとココロが痛むのは、棘のせい?