さ く ら





「あったかいねー」



昼間はすっかり暖かくなったある休日の午後。私は不二くんと近くの公園に来ていた。



「でもまだ桜は咲いてないね」

「そうだね」



近くの桜の木を見上げて私がそう言うと、不二くんも私の隣で同じ桜を見上げた。

この公園は毎年春になると公園建設時に植えられた桜が咲き乱れる。
そのため、桜の季節にはたくさんの人がこの場所に訪れてお花見を楽しんでいる。

しかし、それ以外の時期は静かで穏やかなどこにでもあるような公園だ。
今日もまだ時期が早いため、公園には私たちしかいなかった。



「桜が咲いたらまた見に来たいね」



私がそう言って笑うと、不二くんもそうだね、と返して笑った。






「あ、」

「どうしたの?」



まだつぼみの桜の木の下を歩いていると、不二くんが突然声を上げた。
不思議に思って不二くんの顔を見る。
不二くんは笑って桜の木を指差した。



「あ、桜…」



指差した先に、ちょこんと桜が一輪だけ咲いていた。
一輪だけの桜は、満開の桜ほどきれいではなく、可愛らしさを身にまとって咲いていた。



「なんだか可愛いね」



不二くんがそう言って微笑む。
同じことを考えていたなんて思ってもいなくて私は少し驚いたけれど、すぐに桜を見て微笑んだ。