放課後の屋上。昼間の暑さは少し和らいで、けれども太陽により近い屋上はやっぱり暑かった。 フェンスに背を預け、膝を抱えて座る。フェンスはぎし、と小さく音を立てた。 屋上には、わたしとツナくん。ツナくんは私の隣に立って、フェンスに身体を預けていた。屋上に長い影がふたつ。 「どうしたの、」 下からツナくんの顔を見上げる。ツナくんはわたしを見て、呼び出すなんて珍しいね、と付け加えて笑った。 「ツナくん、」 「なに?」 わたしはツナくんを見上げながら口を開く。声が真剣に聞こえたのか、ツナくんの顔が少し強ばって見えた。 わたしは、へら、と笑うとまた口を開いた。 「あの、わたしさ、ツナくんのことすごい好きだけど、言わせてね。」 膝を抱えたまま、視線を合わせて。『好き』の言葉に照れたのか、視線を合わせることに疲れたのか、ツナくんはわたしから顔を逸らして、真っ直ぐ前を見た。同じように前を見ると、鳥が二羽、仲良さそうに飛んでいた。 「ツナくんのばぁーか。」 あごを膝に乗せて、そう呟く。 「…はっ?」 訳がわからないと言うように、ツナくんは目をぱちぱちさせながらわたしに目を向けた。わたしはまたツナくんと目線を合わせて、笑った。 「なっ、なんで?」 「ただのやきもちだよ。」 ふふ、と笑うとツナくんはやっぱりはてなを浮かべながら頭をひねっていた。 そう、本当にただのやきもち。あの人はいつもいつも10代目、10代目って、わたしだけを見てくれない。寧ろ、ツナくんばかり見ているような気がして。だから、ツナくんにやきもちをやいた。 一度危ないことに巻き込まれた時だって、ひとこと目は、大丈夫ですか10代目!だった。あのときどれだけ傷ついたことか。 でも、誰よりも優しくて、わたしを護ってくれようとしてるのもちゃんとわかる。わたしを危ないことに巻き込まないようにしようとしてくれてるのもわかる。危ないことに巻き込まれたあの時だって、ひとこと目はあれだったけど、ずっとずっと護ってくれたのはちゃんとわかった。だから、行かないでとか連れて行ってとかわたしだけを見てとか、困らせるようなことは言えない。 「…獄寺くんは、」 ツナくんが口を開く。何も言っていないのに、こういうときは無駄に鋭いなあなんてちょっとひどいことを思いながら、いつの間にやら俯いていた顔をツナくんに向けるために上げた。 「ちゃんと好きなんだと思うよ。」 「…うん、わかってる。」 わかってるんだけど、独り占めしたくなるのが女心というもので。独り占めしたいのに、彼を困らせたくないのもあったりして。困ったように笑うと、ツナくんもまた困ったように笑った。 「オレ、強くなるよ」 真っ直ぐ前を向いて、誓うように。 「そうしたら獄寺くんも少し楽になるでしょ」 まだ、先になるかもしれないけど必ず。そう言って笑うツナくんは、いつもの優しいツナくんだ。マフィアのボスだなんて到底信じられない。 「うん、ありがと」 頑張れ、と言うと、ツナくんは照れたように笑った。 「…ごめんね、ツナくん。…バカって言ったの、隼人くんには内緒ね。」 怒られちゃうから、と付け加えると、ツナくんは頷いて。それから、ふたりでなぜか顔を見合わせて笑った。 「10代目!」 「獄寺くん」 屋上の扉がばん、と勢いよく開いたかと思うと、扉が開くよりも勢いよく隼人くんが飛び込んできた。相当探したに違いない。額にはうっすらと汗。…ツナくんのため、だろうけど。少しむかつく。 「オレ、先に帰るね」 「10代目が帰るなら一緒に――」 「ううん、たまにはひとりでも大丈夫。」 それにね、ツナくんは隼人くんを見て笑う。 「友達には幸せになってもらいたいし」 隼人くんは、はあ、とか返事をしながらわけがわからなそうにその場に立ち尽くす。ツナくんは笑いながら、じゃあね、と手を振って帰ってしまった。屋上に、さっきよりも長い影がふたつ。 「お前、10代目になんか言ったか?」 隼人くんはそう言いながらわたしの隣に座った。ああ、また10代目。少しはわたしを見て欲しい。 「隼人くんのことが好きで好きでたまらなくて、どうしようかって話してただけだよ」 「な…っ!」 嘘だけど、嘘じゃない。ツナくんにやきもちをやいたのは隼人くんが好きだから、なんだし。 隼人くんは真っ赤になって(いや、もしかしたら夕日で赤かっただけかもしれないけれどそうは思わないことにして)、わたしを見て固まってしまった。 「…バカか。」 「なっ!」 次に隼人くんの口から出たのはそんな言葉。さすがに文句を言おうと隼人くんの方を見たら、捕まえられて、口付けられた。 「隼人くん…?」 「うるせー。」 顔を上げようとしたら、広い胸に閉じこめられてしまった。 「…あんまり10代目とくっつくな」 「…ツナくんをわたしに取られた気になるから?」 そう聞こえたわたしはだいぶ病んでいるんだろうか。ムカついて、それと同じくらい悲しくなった。ああやっぱり。隼人くんのいちばんはツナくんなんだ、と思って泣きたくなった。泣きそうになっていたら更にきつく抱きしめられた。息が苦しいほど。 「…逆だ、逆。」 「えっ?」 聞き返そうとしたけれど、もう言わないとでもいうように抱き締められたままだったから、やめた。とりあえず今は都合のいいように解釈して、幸せに酔っておこうと思って、腕を隼人くんの背中に回した。 |