「どうして……」

 ジャラ、と。動く度に足首に巻き付いた鎖が音を立てた。恐怖で震える。涙が止まらない。

 朝、普通に学校に行って、帰りに葉月くんに会った。一緒に帰っていたら雨が降ってきたから葉月くんの家で雨宿りさせてもらうってことになって、葉月くんがコーヒーを淹れてくれて……そうして気がついたら足には鎖が巻き付いていた。鎖の先は部屋の柱。この部屋から出られなくなっていた。

「なんで……っ」

 葉月くんは何も言わずにわたしの前にしゃがみこんだ。エメラルドグリーンの瞳がわたしを見つめる。距離が近くなってますます怖くなった。

…」

 すう、と手がのびてきた。優しかったはずの、今はただ怖いだけの、綺麗な綺麗な葉月くんの手。

「や、だっ…いやっ」

 怖くて、触れられたくなくて、精一杯抵抗する。そんな抵抗もむなしく、拒否したはずの手に腕を縛られて床に倒された。人の倒れる音が静かな部屋に響いて、同時にまたジャラ、と鎖が音を立てた。

「こんなの、いやだよ…!葉月くん…っ」

 覆い被さる葉月くんを見上げる。何も言わない葉月くんの顔がぐらりと歪んだ。

「…ごめん………」

 どうして。



 どうしてそんなにつらそうな顔をするの。
 どうしてそんなに悲しそうな顔をするの。
 どうしてそんなに痛そうな顔をするの。



 わからないまま、わたしは噛みつかれるようなキスを受け入れるしかなかった。