「葉月くん、」
「ん?お前か」
「一緒に帰ってもいい?」

 いつもの声。いつもの笑顔。いつからか、こうして声をかけられるのを待っていた。

「ああ」

 俺はこんな短い返事しかできなくて、それでも笑ってくれるに安心する。

 夕陽に伸びた影を追いかけるようにふたりで並んで歩く。隣に居るは毎回いろんな話を聞かせてくれて、俺はそんなに相槌を打つだけだった。

「ごめんね、わたしばっかり話してて」
「いや…俺、お前の話好きだよ」

 できることならずっと聞いていたい。でもうまく伝えられずに、結局短い言葉で終わる。もどかしい。

「そっか、それならいいんだけど」

 そんな言葉でもは笑ってくれて、またいろんな話を聞かせてくれる。

「いつか葉月くんも話聞かせてね」
「ああ…してやる。…いつかな」

 俺が最初にしてやる話は多分、幸せな姫と王子の話。


 その話を俺がしてやれるまで、それまでどうか、この声を、笑顔を失いませんように。
 隣にいてくれますように。