、」

 日曜日の昼下がり。待ち合わせの場所にはもう彼女の姿があった。俺の呼びかけにはこちらに視線を向けて手を振った。その表情に、少しの違和感。
 もしかして俺が遅れたせいで怒っているのかと時計を見ても、約束の時間まではまだ5分ある。そもそもは俺の遅刻を怒るようなやつじゃない。

「どうかしたか?」

 そう尋ねても、はどうして?と言って苦笑した。昔からそうだ。はひとりでなんでも抱え込んでは、決して他人に言おうとはしない。すぐ顔に出るのに隠そうとする。一度、俺には話してくれるように言ったら、葉月くんもねと笑って、それからは話してくれるようになったけれど。
 感じた違和感をはっきりと言葉に表すこともできず、俺は別に、とだけ答える。それに、理由を言ったところで話してくれないことの方が多いのだ。は変なところで頑固だから。

「そっか」
「……行くぞ」

 の小さな右手にそっと自分の手を重ねると、はうんと頷いた。

 手を繋いだまま、のんびりと公園通りを歩く。初夏の風がふわりとの髪を揺らした。ふと、また違和感を感じた。いつもより口数が少ない気がする。の視線の先、高校生くらいの女子が歩いているのが見えた。

、」
「えっ、あ、ごめん。なに?」

 視線が俺に移る。

「どうしたんだ、お前。今日、少しぼんやりしてるだろ」
「うん……」

 はうつむいて少し黙ったあと、俺を見た。

「あのね……Tシャツが、」
「Tシャツ?」

 は少しだけ恥ずかしそうに口を開いた。

「珪くんのTシャツ着てるなぁって」

 そう言われて、そういえば昔雑誌に載せられた写真がTシャツになるとかいう話を思い出した。少し前の話だったし、興味もなかったが、本当に発売されたのか。そう思いながら、の話を聞く。

「待ち合わせのときにも、売られてるの見たの。それで、なんか……ちょっともやもやしたというか……やきもち、かな」

 はそう言うと、本物の珪くんと一緒に居るのに贅沢だね、と笑った。俺はそれを聞いて、なぜだか今すぐにでもを抱きしめたくなった。束縛欲なんて俺だけだと思っていたから、どんな形であれなんだか嬉しい。今すぐ抱きしめることができない代わりに、つないでいる手をぎゅっとにぎりかえす。

「珪くん?」

 不思議そうな顔で見上げてくるに、そっと微笑んだ。