テストの結果発表が貼り出された日。俺はみんなと同じように結果を確認しに廊下に出た。順位には興味がない。テストの順位が上がったとか下がったとか、そんなことはどうだってよかった。


 結果表を人だかりの後ろから眺めるが、順位を確認することはできない。それもそうだろう。今回俺の名前は下の下の方にあるはずだろうから、この人だかりじゃ確認できるはずもない。

 さてどうするか、と佇んでいると、俺を呼ぶ声がした。結果表から声の方へと目を移すと、人だかりから少女がひとり飛び出してきた。

「葉月くん、どうしちゃったの!?」
「……何がだ?」
「テストで0点だなんて……もしかして、」
「ああ、寝てた」

 そう告げると、声の主の少女――は、呆れたような驚いたような顔をして俺を見た。

「……葉月くんって、大物だよね」
「だろ?」
「誉めてるわけじゃないけど……」

 はひとつため息をついた。

「葉月くん頭良いんだから、ちゃんとやらないとだめだよー」
「そうだな」
「……あんまり“そうだな”って思ってないでしょ?」

 そう言いながら、少し怒ったような表情で見上げてくる。それをいつものような会話のテンポで受けとめる。



 良い点をとって順位が上のほうでも特に良いことは無い。寧ろこうして話しかけてもらえるから、最近は0点を自ら望むようになった。こんなことを言ってしまえばは困るだろうし、もしかしたら話しかけてもらえなくなるかもしれない。だから、言わずにそのままにしておくつもりだ。


 には好きなやつがいる。友達でいて欲しいと言われたし、俺も素直に応援したいと思った。嬉しいことがあった日にはその話を聞いて俺も嬉しかったし、苦しんでいるときには相談にのってやりたいと思った。

 でも、ある日気付いた。俺の中にあるへの想いと、の好きなやつへの嫉妬心。友達でいると決めた日からそんな想いどうしようもないと気付いていたはずなのに、が離れていくことが怖くて、弱かった俺は友達でいることしかできなかった。実際「親友」の位置に立ってみたら、手を伸ばしたら届きそうで、でも絶対に届かない距離で愕然とした。苦しい。



 たわいないことを話しているとチャイムが鳴った。人だかりがみるみるうちに散っていく。

「わっ、教室戻らなきゃ!葉月くん早く!」
「ああ」

 駆け足で教室に向かうの背中を追いながら、このままこの背中をつかまえてしまえたらどんなにいいかと、そんなばかげたことを思った。