大好きなあなたになにを伝えよう?
ほら、もうすぐ特別な日。






Dear My Precious...






はぁ、と吐き出したため息は白く濁って消えた。
風は冷たく、何処からやってきたのか、もうほとんど葉が落ちてしまった木や、
街を歩く人々を撫でながら、もうすぐ冬、という匂いを運んでくる。
日も短くなってきて、が歩いている今はすでに真っ暗だった。



「はぁ…」



はまたため息をついた。ため息はまた白く濁って消えた。








街は気が早く、まだ11月だというのにクリスマスのイルミネーションがきらきらと輝いている。
どこからかクリスマスの曲も流れてきた。
そんな明るい曲も今の の耳には入っていなかった。
大切な人の大切な日が近いから。




もうすぐ11月28日。幼馴染みで恋人である英二の誕生日。




は、英二の誕生プレゼントに何を買うか悩んで、
学校帰りに少し寄り道をして、街の中を歩いているのだった。











部活で使えるようなタオルは去年あげた。
おととしはお菓子を作ったけれど今はそんな時間もなくて。


あれでもない、これでもない。


悩みながら歩いていただが、とりあえずお店に入ることにした。
入ったのは小さな雑貨屋。窓には可愛らしいガラスの置物が飾られている。


はマグカップやお弁当箱、クッションから石鹸まで、色々と店の中を見てまわった。
どれもとても可愛いものだけれど、どれもピンとくるものはなく。
そろそろ店を出ようかと視線を今まで見ていたものから逸らしたとき、ふとあるものが目に入った。
はそれに近づいて手にとってみた。色とりどりのそれはとても可愛いものだった。





店から出たの顔はとても満足そうだった。
















11月28日。その日の朝はとても寒くて。
それでも天気はとてもよく、青空がとても眩しかった。


今日は休日。それでも男子テニス部は近々練習試合があるらしく、英二は朝から学校へ出かけていた。
帰るのは夕方になりそうだ。
今日一日英二に会えないは、英二には秘密だが、晩御飯のときに家にお邪魔する事になっている。







今日は不二くんのお姉さんがケーキを焼いてくれると言っていたからそれを取りに行って。
それから英二の家に行って晩御飯のしたくの手伝いをして。
プレゼントいつ渡そう?英二は喜んでくれるかな。















「ただいまー」



ばたばたしているうちに日も暮れて。今日の主役が家に帰ってきた。
出迎えたのは、母親でもなく、父親でもなく。



「おかえり、英二。」

「あれ?来てたの??」

「うん。でも、それはいいとして早く着替えておいでよ?ご飯できてるよ。」

「えっ、あ、うん!すぐ行く!!」



英二はバタバタと凄い勢いで部屋までかけていった。
に会えて嬉しかったのか、部活で疲れてよっぽどお腹が減っているのか。















英二がリビングに行くとテーブルにはいつもより少し豪華な食事。
その周りには家族ととても大切で大好きなヒトの顔。



「誕生日おめでとー!」

「…へ?」



いきなりの事に英二は驚いてその場に固まった。
最近部活が忙しくて、今日が自分の誕生日だなんてすっかり忘れていて。
あれ、今日何日?と思うこともしばしばで。
そんなときにこんなに嬉しくて、とてもびっくりするような事をされるなんて。













ご飯を食べて、ケーキを食べて。
大好きな人たちに囲まれて、英二はとても幸せそうだった。




「…じゃあ、私そろそろ…。」

「あら、ちゃん、もう帰るの?」

「はい、お邪魔しました。」



は席を立った。



「じゃあ俺送ってくよ。」



英二も席を立った。
送っていくとは言っても、二人の家は隣同士。
送ってもらうほどの距離ではないけれど、はそれを断る事はなく。
二人きりで居たいという気持ちがあったのだろう。
二人はそろって外に出た。














「英二、」

「んー、何?」

「これ、私から。」



そういっては英二にそれを差し出した。



「誕生日おめでとう。」

「俺に?」

「じゃなかったら誰の?」



そう言ってはクスクスと笑った。
綺麗に包装されたそれは、の手から英二の手へ。



「開けていい?」

「うん、どうぞ」



英二が包みを開けてみると



「歯ブラシ?」



中から出てきたのは歯ブラシと少し変わった歯磨き粉。外国のものだろうか?
それから綺麗なガラスのコップ。




幼馴染みだから知ってる、英二のスキなコト。




「使ってくれると嬉しいんだけど。」



そう言っては少し照れたように微笑んだ。



「ありがとにゃーvv」



英二は嬉しそうにぎゅぅっとを抱きしめた。
も、英二を拒むことなく受け入れて、そっと背中に腕を回した。




「英二、」

「ん?」



は少し背伸びをして軽く唇にキスをした。



「…おまけ、ね?」










―――――誕生日おめでとう。これからもよろしくね。の気持ちをこめて。