「…!」 ノックもなしに飛び込んできたのはクリスだった。 用があってしばらくお屋敷にいなかった彼は、彼にしては珍しく取り乱している。 (まずノックなしに飛び込んでくることなんて普段なら有り得ない。) 「クリス…どうしたの?」 「どうしたの、じゃない!お前が病気で倒れたと右京様から…!」 クリスはそう半ば叫ぶように言いながら、私が横になっているベッドに近づいてきた。 「心配、した…」 クリスはそう言うとベッドの横に力なくしゃがみこんだ。 その声がなんだか泣きそうで、いつかの雨の夜、いなくなったクリスを探した日を思い出した。 私は上体を起こしてクリスの綺麗な金の髪に手を伸ばした。 ふわ、とした柔らかな感触。 「ごめんね、クリス。でもただの風邪だし、大丈夫だからあんまり…」 心配しなくても、と続けようとして、言えなくなった。 急に強く抱き締められたから。 「お前に何かあったら…俺はどうしたらいいか…」 私を抱き締める腕が震えていた。 この人は本当に私を心配してくれてる。 その嬉しさと…心配をかけてしまった申し訳なさがこみ上げた。 「ごめんなさい、クリス…私はちゃんとここにいるよ。ここにいるから…」 クリスの背中に手を回し、肩に頭を預けて、そっと目を閉じる。 クリスはうん、と小さく頷いて、それでもしばらく私を抱きしめる腕が緩むことはなかった。 - - - - - - それから、風邪が治るまでクリスは私の傍をほとんど離れなかった。 右京さんが何か言いたげな目で見ていたけど、いつも小さくため息をつくだけで何も言われなかった。 紫堂さんや藤盛さんは用があって部屋に来るたびに少しだけからかわれたけど、 クリスがあまりにも堂々としているものだからそのうち何も言われなくなった。 風邪もすっかりよくなって、今はもう前より元気なんじゃないかと思うくらいだ。 だけど、もうちょっとだけ、風邪をひいててもよかったかな、と思う。 (こんなことを言ったら、きっとみんなに怒られると思うけど) 「クリス、」 「なんだ?」 「また、もし、もしだけど、風邪をひいたら、クリスはずっとそばにいてくれる?」 「馬鹿。……風邪なんてひかなくても、オレはお前のそばにいる。…ずっと、」 |