愛の謳をうたおう
あの囁きあっている小鳥たちのように






何度でも、君に






ある春の午後。空は良く晴れていて、白い雲が何処へ行くのか、ぷかぷかと散歩している。
風はときどきいたずらに町の人々や木々をくすぐっていった。
過ごしやすい日。お出かけ日和といえる、そんな日。

そんな日にもかかわらず、彼女―――は、図書館で本を読んでいた。
彼女が此処で本を読んでいることはいつもの事で、そこへ彼がやってくるのもいつものことで。
は彼に気がついて、きちんと本にしおりをはせると、彼の方を見て口を開いた。



「ロイ、また来たの?」



がそう言うのはいつものことで。



「君に会いにね。」



ロイがそう言って微笑むのもいつものことで。



「もう、そんなこと言っても何もでないわよ?」



が少し照れて、微笑み返しながらそういうのもいつものことだった。












彼女はこんな時間がとても好きだった。
いつもの時間。いつもかけられる優しい声。向けられる微笑み。



「それより、今日はすごく天気がいいことは君も知っているだろう?外に出ないか?」

「いいけど…私まだこの本途中だし…」

「借りて、外で読むのもたまには良いと思うんだが?」



ロイはそう言うと、本を手にとって、貸し出しカウンターまで行き、貸し出しの手続きを済ませた。



「行くぞ?」



ロイはそう言いながらに本を手渡した。



「もう、強引なんだから。」



そんな事を言いながらも、はクス、と小さく微笑みを零して、
本を受け取ると、ロイと外へと出て行った。
















外は相変わらず良く晴れていて、のんびりとした時間が流れていた。
太陽はあらゆるものにきらきらと優しい光を与え、
鳥たちはつばさをめいっぱい広げて、大空を飛び回ったり、木陰で羽を休めたりしている。

そんな空間の中、は木陰で本の続きを読んでいた。
ぱら、ぱら、とページをめくるたびに微笑んだり、悲しそうな表情になったり。
ロイは、そんな彼女の表情を一瞬でも逃さないとでもいうように、
の隣に座って、彼女を見つめていた。

















「ごめんね、退屈だったでしょう?」



は本をぱた、と閉じると、顔を上げ、ロイの方を見た。



「いや、私も十分楽しませてもらったからね。」

「え?でもここには何も―――」



ないじゃない、と言おうとした唇に、ふわり、とあたたかいものが触れた。
かと思うと、のからだはロイの腕の中におさまっていた。



「ちょっ…ロイ?」

「……愛しているよ…」



そっと囁かれた言葉には赤くなり、それを隠すように、ぽす、とロイの胸に顔を埋めた。



「…なんでいきなりそんなこと」

「言いたくなってな。」

「もう……」





―――いつもいきなりそう言って、私の反応を楽しんでるんじゃない?




そう思ったりするだったけれど、そう囁かれるのは嫌いではなかった。



「愛してる…」



ロイはもう一度そう囁いた。



「…うん………」










―――私も…。




ぽつり、と静かに。
さわさわと音を立てる木の葉よりも小さいような声だったけれど、ロイはその言葉を聞き逃さなかった。
そうしてまた、に愛の言葉を囁くのだった。












愛の謳をうたおう。
君のためなら 何度でも。