突然ですが、私今とってもピンチです。







12/21







「あ、あの…冬獅郎?」

「……」

「やっぱ、その…怒ってる、よね…?」




勤務時間を過ぎても執務室で黙々と仕事を片付ける彼の前に、私は突っ立っていた。




「あの…本当にごめんね…?」

「……」




答えてくれる気配は無い。
でも、それも当たり前といえば当たり前なことだった。




















「……え?」

「あら、もしかして忘れてたの?」




私が彼にひどいことをしたと気づいたのは今日のお昼近く。
昨日からずっと大変だった仕事がひと段落して、乱菊さんとお茶をしているときだった。




「だから今日は隊長の機嫌が悪いのねぇ」




乱菊さんはそう言って呑気にお茶を飲んで、お菓子に手を伸ばした。
私はその向かいの席で、飲もうとしていたお茶を持ったまま固まっていた。




(私、最低だ…!)




お茶を持つ手がふるえる。




「冬獅郎の誕生日、すっかり忘れてたなんて…!」




















そう、これ。
彼が直接言ったわけではないけれど、私が彼を怒らせた理由はきっとこれ。
気づいてすぐ謝りたかったけれど、今日はいつもなら考えられないくらい忙しくて、
結局勤務時間が終わるまで会いに来ることができなかった。




















「冬獅郎…」



重苦しい空気に、涙が出そうになった。
別れを切り出されたらどうしようとか、
このままこのまま終わっちゃったらどうしようとか悪いことばかりが頭の中を駆け巡る。




「………はぁ…」




書類を少し乱暴に机に置く音がした。
それと一緒にため息が聞こえる。




「もういいから」

「…え……?」




ドクン、と心臓が跳ねた。



“もういい”って、どういうこと?
もう怒ってないって事?









それとも………






























「なっ…莫迦っ、お前何泣いてんだよっ」




彼の焦った声が聞こえた。




「ごめんね、冬獅郎…私…」

「だからもういいって」




ガキっぽく拗ねてた俺も悪ィんだし、
と付け加えながら冬獅郎は机の向こうからすぐ傍まで来てくれた。




「もう怒って、ない…の?」

「あァ」




その言葉を聞いて、私は力無く床にへたり込んだ。




「よかった……」




そう呟くと、彼は苦笑してぽんぽんと頭を撫でてくれた。




















帰り道。
外はすっかり真っ暗で、月明かりだけが道を照らしていた。




「ねぇ冬獅郎、」

「なんだよ」

「本当はまだ少し怒ってるでしょ…?」




あからさまに怒ったような態度をしているわけではないけれど、そのくらいはわかる。
私の前を歩いていた彼は、私のその言葉に立ち止まって振り向いた。




「あァ、少しな」




逆光で顔はよく見えなかった。
彼はそう言ってまた前を向いて歩き出す。




「どっ…どうやったら許してくれるっ?」




私は小走りで彼の前に出ると、彼と向かい合った。


彼は、いたずらっぽく笑って言った。













「来年は、忘れねぇこと」