知っていた
あなたの瞳が誰を捕らえているのか








Your eyes








、この資料、ちょい隊長まで届けてくれ」

「あ、はーいっ」



私の名前は
ついこの間十番隊に入隊したばかりの、死神一年生だ。

資料を受け取り、隊長室へ向かう。
扉の前で立ち止まり、コンコンとノックする。



「隊長、資料をお届けに来ました。」

「ああ、入れ。」



扉の向こうから隊長の声が聞こえる。



「失礼します。」



私はゆっくりと扉を開けると、中に一歩だけ入り、扉を静かに閉めてから、できるだけ丁寧に礼をした。
それから、机のところまで行き、資料を手渡す。



「お疲れ様。」

「あ、ありがとうございます…」



資料を手渡すと、たいした事をしたわけでも無いのに、隊長はそう言ってくれて、
私は言葉に詰まってしまい、とりあえずお礼を述べた。



「じゃ…では、失礼しますっ」

「ああ。」



扉の前で、私はまたできるだけ丁寧に礼をすると、隊長室を出た。
そして、ぱたぱたと急ぎ足で元居た場所に戻る。
特に急ぎの用があるわけではない。
隊長の近くに居ると、自分が自分で居られなくなるような気がして。













私は隊長のことが好きだから。






















私がまだ真央霊術院に居た頃のこと。
私がすっ転んで、足を捻挫していたところに、たまたま、本当に偶然に日番谷隊長が居て。
四番隊まで連れて行ってもらったのが、はじまり。
隊長クラスってみんな怖い人ばっかりなんだろうと思っていた私は、
驚くとともに、なぜか嬉しい気持ちになった。
『いつか絶対日番谷隊長の下で働きたい』
という憧れは、いつしか隊長への恋心へと変わっていた。



だから、十番隊に決まったときは本当に嬉しくて。
もちろん他の隊に決まっても頑張ろうと思っていたけれど、一生懸命やろうと心に決めて。
少しでも隊長に近づきたくて。


けれど、隊長には近づけなかった。
隊長が誰を見ているのかを知ってしまったから。




















それは、ある日の帰り道。
少し早めに仕事が終わった私は、
そのまま帰るのもなんだかつまらない気がして、少し遠回りの道を選んだ。
みんなまだ仕事中なのか、人通りは少なかった。

曲がり角を曲がったとき、遠くに人影を見つけた。
日番谷隊長だった。こちらに向かって歩いてくる。私は、咄嗟に隠れてしまった。
隊長は、可愛らしい女の人―――――――雛森副隊長と一緒だった。
二人は仲良さそうに歩いていて。私は見つからないようにこっそり二人を見ていた。
見ちゃいけないようは気はしたけれど。


日番谷隊長と雛森副隊長が姉弟のように育ったというようなことは、どこかで聞いたことはあった。
けれど、日番谷隊長が雛森副隊長を見つめる瞳は肉親のようなものではなく。















―――――とても、愛しい人を見つめる瞳で。



















気がつくと、私は走り出していた。
二人から逃れるように。息をするのも忘れるくらいに、夢中で。


気づけば、目からは涙が溢れていた。


私と日番谷隊長じゃ、距離がありすぎることなんてわかっていた筈なのに。
これが、恋だと気づいた瞬間から、叶わないと知っていた筈なのに。


心のどこかでそれを拒んでいた。
見つめて欲しいと、願っていた。

















あなたのその瞳に、うつして欲しいと。