夜空を流れる星の川
あなたと二人で眺めたいけど





wish





「はぁ…」



放課後。夕方の帰り道。
三回目のため息は夕方の空に消えていった。




今日は7月7日。七夕だ。
しかも、今日は天気予報のお姉さんによると、夜も晴れるらしい。



一緒に星を眺めたい人が居た。
普段は現世に居ないはずの、今は学校にいたりするヒト。

けれど、誘う勇気なんてなく。
何度か話しかけはしたけれど、結局ただの世間話になってしまった。

それで、さっきからぽつぽつとため息をついて歩いているというわけだ。



(試験も近いし…勉強しろってことだよね。うん。)



一人でそう無理やり納得して、私はぽつぽつと家まで歩くのだった。














そろそろ日付も変わろうとしているとき。
机について、覚悟を決めて勉強しよう…として結局今日のことを思い出しては、自分の不甲斐なさにへこんでいた。




コツン、コツン。




何かが窓に当たる音がした。
その音に、私は顔を上げる。




コツン、コツン。




音は、止みそうになく。
私は窓のそばまで行き、カーテンを開けた。
窓のすぐ下の街灯の光の中。人の姿があった。
その姿に私は驚いて窓を開ける。


「日番谷くん!?」

「…降りてこられるか?」

「あ、うんっ!すぐ行くからっ」


お風呂上りで髪が濡れて乱れているのも、パジャマなのも気にならなかった。
彼が会いに来てくれたことが嬉しくて。
とにかく早く傍に行きたかった。


「どうしたの?こんなに遅く…」

「ちょっと付き合ってもらっても良いか?」

「え?あ、うん、いいけど…?」

「じゃ、決まりだな。」


そう言うと、日番谷はずかずかと歩き出した。


「どこいくの?」


私は、少し早足の彼に、小走りについていった。




着いたところは学校だった。
ちょいちょい、と手招きされて、私は彼のすぐ近くまで寄って行った。


と、ひょいと抱き上げられた。


「ひ…日番谷くん!?」

「掴まってろ」


彼はそれだけ言うと、地面を蹴った。
ふわ、と体が浮かんだ気がして、私は驚いて目を閉じて、彼にぎゅっとしがみついた。


着地は驚くくらいなめらかで。
振動はほぼなかった。
地に足が着いた感覚に、私はそっと目を開ける。


「屋上…?」


いつも見ている昼間の風景とは少し違う感じがした。
けれど、見えるものは、学校の屋上のものだった。


「上。」

「上…?」


その言葉に、私は上を見た。


「わぁ…っ!」


降ってそうなくらい近い星空。
きらきらと流れる星の川。


「今日七夕だろ?お前こういうイベントもの好きだとか言ってたと思って…。」

「うん!」


そう言って彼を見ると、彼は私に笑いかけてくれた。
彼は、そっと私を下ろしてくれて。
屋上に仰向けに寝転んだ。私は、その隣に座った。


「日番谷くん、」

「なんだ?」


私は、彼の顔を覗き込む。
彼は一瞬驚いた顔をして、少し照れたように目を逸らした。


「私、すっごく嬉しい。…ありがと。」


そう言って、私はちゅ、と彼のほっぺたにキスを落とす。


「な…っ」

「ふふ、」


彼は、拗ねたように顔を逸らす。

織姫と彦星だって、きっと会えているのだから。
このくらいしてもいいよね?


「…これからどうなるかわかんねーけど、」


夜空を見上げながら、彼が呟くようにそう言う。


「…来年も来れたら良いな。」


いつのまにか繋がれた手。
落ちてきそうな星空の夜につつまれながら。


「うんっ」


私はそう言って、心から微笑むのだった。