ちゃん、まーだー?」

「もうちょっとだけ待ってて」





Please Fill Me With You





ある晴れた日の日曜日。
私は、キッチンに立って、二人分のピラフを作っていた。
部屋には、私とともゑくん。
ともゑくんは突然うちにやってきて、いつもの可愛らしい笑顔で「お腹すいた」と一言。
追い返す理由もなく、迎え入れて、こうしてお昼ご飯を作っている。
私はお皿にピラフを盛って、ともゑくんの居るところへと向かった。



「あれ、ともゑくん、なにやってるの?」



ピラフをテーブルに置きながら、私はそう声をかける。
ともゑくんは、携帯電話とにらめっこしていた。



「んー、データ消してるの。」



目線を携帯の画面に向けたまま、ともゑくんはそう答えた。



「データを?」

「うん。おねーさんたちのデータ全部。」

「え?いいの?そんなことして」



そりゃあ、そういう付き合いはない方が良いと思うけれど。
でも、そんなに簡単に消してもいいんだろうか。
…逆上した女の人がともゑくんの所に来ていろいろあったりしたら…なんて考えたって仕方ないけど。



「うん。…消しちゃった♪」



携帯の画面を私に向けて、満足そうに笑うともゑくん。携帯には『データを消去しました』と表示されていた。
ともゑくんは、私が画面を見たのを確認すると、携帯を閉じて、ピラフを食べ始めた。



「美味しい?」

「うんっ」



私が尋ねると、ともゑくんはそう言って笑う。その笑顔はいつもより晴れやかに見えた。



「…でも、どうしていきなりデータ消しちゃったの?」

「気になるの?ちゃん。」



ピラフを食べながら、ともゑくんは、少し楽しそうにそう聞いてきた。
私は言葉に詰まった。そりゃあ、気になるけど、深く追求してもいいものなのかどうか…。
迷った末に、私はぽつと呟くように言った。



「…気にならないと言えば嘘になるっていうか…」

「アハハ、つまり気になるんじゃん」

「う…。…教えたくなかったら教えなくても良いからね」



私はそう言うと、自分をごまかすようにピラフを頬張った。



「いいよ、ちゃんなら教えてあげる」



ともゑくんは、私の顔をのぞき込みながら、笑う。



「このケータイ、おねーさんたちのデータでいっぱいだったんだよね」



ともゑくんは、携帯電話を閉じたり開いたりしながら続ける。



「でも、これからはちゃんでいっぱいにしたいんだ」



メールも、電話も全部。ともゑくんはそう言う。私は、その言葉に思わず赤面してしまって。



「ダメ?」



そう甘えるように言うともゑくんに、私はふるふると首を横に振ることしかできずに。
ともゑくんはそれを確認すると、また満足そうに笑うのだった。