「ともゑくん、最近ご機嫌ね」

「そーかなー?」






幸せになって






ベッドに転がって携帯電話をつついていたともゑくんは、私の言葉に顔を上げた。
私はいれたばかりのミルクティーを手渡しながら答える。


「うん、なにかいいことあった?」

「んー…なんでそう見えたの?」


質問に質問を返して、ともゑくんはミルクティーを受け取る。
それからカップに口を付けた。


「なんて言えばいいかなぁ…」


ベッドに腰掛けて自分の分の紅茶をちびちびとのみながら、私はともゑくんの質問にどう答えたらいいか考えた。









ともゑくんと私の関係は、恋人でもなんでもない。
たまにふら、とやってくる猫のような彼を招き入れて、セックスして、うちに泊めてあげるだけ。
セフレってやつだと思う。…多分。

そんな彼を、いつの間にか私は本当に好きになっていた。
ともゑくんが本気じゃないことなんて気付いているから気持ちを告げてはいないけれど。

ともゑくんは、機嫌の悪いときによく訪れる。
機嫌が悪いときはセックスの回数も多い。
最近はうちに来ることも少なくなって、ほとんどシない。
だから、機嫌がいいんだろうと考えたんだけれど。










「おねーさんにはなんでもわかっちゃうの」

「アハハ、なんだそれー」


そう言って笑うともゑくんの頭をくしゃくしゃと撫でた。















「せーんせっ!おはよっ☆」

「ともゑくん、最近早いねー」

「だって学校では先生に会えるんだもん」


通勤中、ともゑくんの笑い声が聞こえた。
瞳に映るのは私ではなく、「先生」と呼ばれた可愛らしい女の人。
ともゑくんは笑いながらその人の横に並んで歩いていた。

ともゑくんと女の人が向こう側から歩いてくる。
その横をすれ違う。
声が遠のいて、車の音にかき消された。









多分、あの人がともゑくんを支えているんだろう。
私には、ともゑくんを支えることができなかったけれど、あの人が。


彼が幸せならそれでいい、と思うほど私は出来た人ではないけれど、幸せになればいいと思った。