「りゅーごっ!」

 学校からの帰り道、見慣れた背中を見つけてうしろからがばりと抱きついた。うわとかおわとかなんかよくわからないけどなさけない声が聞こえて、それからいつものように盛大なため息が聞こえた。

「またお前は……」

 いつもいつもと呆れたように言うこともいつもと同じだ。わたしはそれをにこにこしながら聞き流していればいい。ぱっと顔を上げると、竜吾の振り向いた横顔があった。やっと顔が見れた!思わずにっこりする。

「何笑ってんだ」
「えー、内緒!」

 背中から離れて、今度は一緒に歩けるように腕にぎゅっとしがみつく。竜吾はちらりとわたしを見ただけで何も言わなかった。だからそのまま腕に絡みついたまま家までの道を歩き出す。

 わたしと竜吾は幼馴染。竜吾のほうがひとつ年上だけど、家が近所で親同士が仲が良いからしょっちゅう会ってた。ちいさいときからわたしはなぜか竜吾に懐いていて、竜吾がそっけなくても後ろをついてまわってたらしい。確かに物心ついたときからくっついてまわってる気がする。……現在進行形で。

「大体なぁ、お前少しは考えろよ……」
「竜吾が友達と一緒のときは何もしてないもん」
「まぁ、そうか……いや、そうじゃなくてな」
「……だめ?」

 腕にくっついたまま、背の高い竜吾の横顔を見上げる。ちらりと横を向いた顔と目が合った。
 ここでだめだと言われることなんてないと思い込んでいるから聞けることだった。今までだってだめだと言われたことはないし、というかそもそも竜吾に拒否をされたことがこれまでに無い。呆れたようにため息をついても、結局は仕方ないなあとわたしの願いを聞き入れてくれる。竜吾に甘えている。

「……や、その、別にだめってわけじゃねぇけどよ……」

 竜吾はそう言ってわたしから目を逸らしてがりがりと後ろ頭を掻いていた。



 わたしは竜吾のことが好き。ずっとずっと大好き。だけど好きだと伝えたことはない。言ってしまって拒否されてしまったらわたしは多分どうしたらいいのかわからなくなってしまうし、言ってしまったら何かが変わってしまう気がした。怖い。だから結局今日も優しさに甘えたまま一日が終わってしまった。
 竜吾はわたしが今日みたいに帰り道でじゃれついたときは、自分の家の前を通り過ぎるのにわたしを家まで送ってくれるのだ。いつのまにかそれが当たり前みたいになってしまっている。多分、いつか終わる「当たり前」なのに、そのことがいちいち嬉しくて、わたしはどうしても甘えん坊になってしまう。

「送ってくれてありがとう」

 するりと腕を放して、玄関の前でそう言うのもいつの間にかいつものことだ。竜吾はおう、と短く返事をしてくれる。いつも竜吾の特別になった気がして嬉しかった。

 いつまでもわたしがずっとこのまま隣にいられたらいいのにと思う。

(だいすき)

 帰って行く竜吾の後姿をこっそり見つめながらそう心の中でつぶやいた。